(帆柱起し音頭)

◆船絵馬◆
(富山県高岡市伏木 北前船資料館蔵)
〜富山県高岡市〜
◆かつての北前船の船宿◆
(富山県高岡市伏木 北前船資料館)

富山県高岡市伏木は、小矢部川の河口に位置し、かつては大変に賑わった伏木港は、日本海岸での代表的な港でした。

その伏木港は能登半島に風がさえぎられ、波が穏やかであって、徳川幕府が全国十三港の1つに指定したという良港であったといいます。そして千石積みの大型の北前船が出入りしていたといい、あたりには大小の船問屋、船宿などが軒を連ねていたといいます。

◆伏木の街並み◆



その伏木で、春三月の吉日を選んで、船の帆柱を起こす行事の時に、大漁や海上安全を祈って歌ったのが《伏木帆柱起し祝い唄(帆柱起し音頭)》です。この行事は幟を立て、賑やかに歌い踊ったものといいます。

曲の方は、《伊勢音頭》などの源流でもある、伊勢の《御木曳き木遣り》といわれています。この唄は、各地の木遣りに使われたもので、港での祝い唄として各地に残されていますが、それが伏木にも伝えられたものです。

◆保存会の踊り(富山県民謡・民舞まつり◆

この唄も時代とともにだんだん歌われなくなってきたのですが、それを伝承していた古老達の唄を昭和40(1965)年に復活に乗り出し始め、更に地元テレビ局所有の録音していたテープなどとともに、歌詞を整理し、町の青年団によって三味線や鳴り物などの伴奏をつけて披露し、以後盛んに歌われるようになったのだそうです。

歌詞は、
○帆柱起しで 目出度目出度の 伏木の浜で
といったもので、主に「ソリャヤートコセーヨーイヤナー」等の力強い掛け声で構成されています。ここに《御木曳き木遣り》の特徴が見られます。また中央で紹介されたのは、初代浜田喜一師で、全国的にもよく知られた民謡となりました。

地元保存会の演唱では、冒頭に本来の木遣りらしい無伴奏による部分が挿入されています。踊りも華やかな組踊りとなっており、見ていても楽しいものです。

なお同系統のものには、おとなりの氷見市に伝わる民謡《氷見網起こし木遣り》が似た感じです。また、北海道の《沖揚げソーラン節》に取り入れられている冒頭の木遣り部分が似ています。また、民俗芸能に見られるものには、富山県射水市海老江の曳山で歌われている木遣りがやはり似ています。港町等で同様の「木遣り」が歌われてきたものと思われます。

高岡市伏木を訪ねますと、かつての船宿であった家屋も残され(北前船資料館として公開)、港町の雰囲気を残している街並みです。また「喧嘩山」と呼ばれる、伏木の曳き山まつり(5月15日)でも知られています。

なお地元では、8月2、3日の「伏木港まつり」の3日の晩に、踊りの町流しがあるそうです。現地での《帆柱起し音頭》もぜひ聴きたいものです。