〜神奈川県三浦市三崎〜

◆三崎港◆

神奈川県三浦半島の先端にある三浦市の三崎漁港は、江戸時代には浦賀とともに、江戸への海の関門として知られ、栄えました。南方の城ヶ島により自然の防波堤となっており、古来より避難港、風待港としての機能をもち、またマグロ漁の拠点として知られてきました。こうした港町の花街で歌われてきた騒ぎ唄が《三崎甚句》です。

◆三崎の古い建物◆

曲の源流は江戸期に流行した《二上り甚句》です。この唄は、日光例幣使街道の宿場・千住宿で流行した《千住節》という唄で、各地の花街や座敷で好んで歌われてきたようです。現行の《三崎甚句》の三味線の手付きも、よく《二上り甚句》の足あとを残しています。

各唄の後につく「長ばやし」が特徴的です。同様なものに千葉県館山市布良港の《安房節》、静岡県下田市下田港の《下田節》等が知られます。これらは《ハイヤ節》と同系統ではなく、《三崎甚句》と同様の甚句系の唄でと考えられます。また太平洋岸地域に歌われる《浜甚句》などとの影響もあるといわれています。

こうして各港で歌われてきた楽しい甚句の1つといえます。港町の花街での座敷唄は、おそらく大変賑やかなものであったことと思います。歌詞も座敷唄らしく、おおらかなものが多いようです。

「長ばやし」もおもしろいのです。三崎独特のもの、なかなか意味深長なもの等があります。
●トコ ラットの帆前船 エー上はデッキで すべくるヨーエ
という横文字入りがおもしろいです。「トコ」は拍子詞、「ラット」とは舵輪(だりん)=ラッダーのことで、洋式の新造船を見た驚きをあらわすのだそうです。

よく聴くものは、テンポが割合ゆったりとした演奏が多いです。しっとりとした雰囲気にまとめられています。ここのところ、《古調三崎甚句》として、ややはずみの多い感じの歌い方のものも聴くことが多くなりました。現行の歌い方は昭和に入ってからのもので、古くは《二上り甚句》そのものであったようです。

三崎港といえば、
○三浦三崎にドンと打つ波はヨ 可愛いお方のサ 度胸だめしダンチョネ
と歌われる《ダンチョネ節》も有名です。《三崎甚句》とともに、三浦市の民謡として、コンクールも行われ、広く歌われています。