<長野県飯田市> |
信州遠山郷は、三州、遠州、信州の接する山岳地帯で、南アルプスに抱かれた山深い里です。ここで旧暦霜月、新暦の12月の冬至の頃、万物の生命力の衰える冬の季節に、復活蘇生を祈るまつりとして行われてきたのが「遠山霜月祭」です。
「遠山霜月祭」は、「霜月祭」「遠山祭」などともいい、いわゆる「霜月神楽」とか「湯立神楽」と言われるもので、民俗学研究では古くから知られてきたまつりです。現在、長野県飯田市になった旧上村、南信濃村の2村、13ヶ所に伝えられています。
もともとこのあたりを往来した修験者たちが伝えたというように、神仏混淆、両部神道の名残を見ることができます。また、鎌倉幕府の時代、遠山郷が荘園であったことから、鎌倉の「八幡系神楽」が伝えられたとか、秋葉街道の起点となる諏訪の「諏訪系神楽」との関連など、さまざまなものが取り込まれたもののようです。
ただ、華やかな奥三河の「花祭」などと比べると、やや陰鬱な雰囲気を醸し出す部分があり、鎮魂を主眼とする神事が多いのが特徴です。
特にこの地を治めていて江戸時代に改易となってしまった遠山氏一族と「御霊信仰」とが関連して語られているように、遠山氏の死霊面のが登場に、このまつりの特徴がよく現れています。
これら13ヶ所のまつりは、それぞれの舞型から「上町タイプ」「下栗タイプ」「木沢タイプ」「和田タイプ」に分類されています。
「上町タイプ」とは、上村上町を中心とした地区のもので、面の数は遠山谷の中では少ない方です。遠山一族の面とも言われる「八社」の面は陰鬱な雰囲気です。また激しい「四面」は水の王、しゃな王、大さき王、火の王で、湯切りをするのは水の王としゃな王です。全体に整然とした構成となっています。最後は狩衣姿の「天伯」が弓を持って登場するのが特徴です。
「木沢タイプ」とは南信濃村木沢を中心とした地区のものです。笛のメロディも「上町タイプ」とは若干異なります。ここでは面の数がかなり増え、次々とたくさんの神様が登場します。また湯切りをするのは、最初の「大天狗(火の王)」と、最後の方の「小天狗(水の王)」です。また荒々しい「四面」は、上町タイプとは異なり、半僧坊、山の神、金山神、秋葉神といった神様が登場します。また、最後は剣を持った「天伯」で締めくくられます。
「下栗タイプ」は、上村下栗のものをさします。ここは木沢タイプとおよそ似ていますが、上町と木沢の中間のような感じです。またここの特徴は、本村の拾五社大明神と屋敷の津島天王社の2ヶ所を合わせたために、同じ面の舞が同時に出る演目があります。また「龍頭」と「ちんちゃこ」という演目が独特です。
「和田タイプ」とは、南信濃村和田を中心とした地区のもので、面は共通です。普段は和田諏訪神社に保管されていて、それぞれのまつりの時に運ばれて使用されます。また最大の特徴は、音楽が太鼓のみで笛を使わないことです。また面の数は特に多く、次々に登場します。「四面」や「天伯」はなく、「水の王」が最初に湯切りをしてスタートします。また最後を締めくくるのが「猿の舞」であることも特徴です。
しかも、各地区によっても細かい違いがあり、見比べるのも面白いかも知れません。
まつりは前日の「宵祭」からスタートするところが多いです。
そして「本祭」は、お昼過ぎから始まるところが多いです。細かな神事があり、全国の神々を呼び寄せる「神名帳」や「申し上げ」といった儀式的な部分があって、いよいよ舞が始まります。そして数々の「湯立」が丁寧に行われます。特に、修験道の影響があり、さまざまな印を結んだり、九字を切ったりする場面を見ることができます。地区によっては「般若心経」を唱えたり、数珠を持ったりするところもあり、神仏習合、両部神道の名残を見ることができます。
そしていくつかの神事を挟みながら、呼び寄せた全国の神々にはお帰りいただいて、その後は地元の神々の舞ということで、「面形の舞」となっていきます。
なお、あらかじめまつりの概要を知るには、上村ではまつり伝承館<天伯>、南信濃では遠山郷土館<和田城>があり、ここを訪れるとまつりのこと、面のことなどが分かります。
タイプ | 地区 | 所在地 | 場所 | 日時 | 時間 |
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上町タイプ | 上町 | 旧・上村 | 正八幡宮 | 12月11日〜12日 | 午後0:00〜(翌日)午前7:00 |
中郷 | 正八幡宮 | 12月第1土曜〜翌日 | 午後2:30〜(翌日)午前6:30 | ||
程野 | 才若八幡宮 | 12月14日〜15日 | 午後0:30〜(翌日)午前6:00 | ||
下栗タイプ | 下栗 | 拾五社大明神 | 12月13日〜14日 | 午後1:00〜(翌日)午前5:00 | |
木沢タイプ | 小道木 | 旧・南信濃村 | 熊野神社 | 12月第1日曜〜翌日 | 午後1:00〜(翌日)午前1:00 |
中立 | 稲荷神社 | 12月1日 | 午後0:30〜12:00 ★隔年交互開催 |
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八日市場 | 日月神社 | 12月1日 | |||
木沢 | 正八幡社 | 12月13日〜14日 | 午後4:30〜(翌日)午前6:00 | ||
須沢 | 宇佐八幡神社 | 12月16日〜17日 | →休止 | ||
上島 | 白山神社 | 12月第1土曜〜翌日 | 午後1:00〜(翌日)午前1:00→休止 | ||
和田タイプ | 和田 | 諏訪神社 | 12月13日〜14日 | 午後0:30〜(翌日)午前0:00 | |
尾野島 | 正八幡社 | 12月15日〜16日 | 午後1:00〜(翌日)午前0:00 | ||
大町 | 遠山天満宮 | 12月23日 | 午後1:00〜午後9:00→休止 |