<長野県南佐久郡小海町>
親沢諏訪大明神/4月第1日曜日 13:30〜


長野県南佐久郡小海町は長野県東部の町。群馬に近い茂来山の麓に抱かれるように親沢地区があります。その春祭りに、川平獅子とともに「式三番」が奏演されます。これは天下泰平、延年寿福、五穀豊穣を祈願するものといわれています。長野県東信地方には4ヶ所の「式三番」の伝承がありますが、親沢は唯一の人形によって演じられています。

この「人形三番叟」と呼ばれる芸能は、中央の「能楽」の《翁》を人形によって演じるものです。《翁》の原型は「父尉(ちちのじょう)」=釈尊、「翁」=文殊、「三番」=弥勒をかたどったものといいます。現在、登場人物は露払いとしての「千歳」、白い翁面をかける「翁」(白式尉)、素面で登場し、途中で黒い面をかける「三番叟」(黒式尉)の三役を親沢では人形が担当します。また親沢では千歳を「千代」、翁を「大明神」、三番叟を「丈」と呼んでいます。更に笛、鼓、大皷(おおかわ)の楽器担当、地謡などで構成されます。


まつりは、現在4月第1日曜日に行われていますが、かつては4月3日でした。12:30頃、親沢の公民館から、紙を頭に覆い、おしいただくように三体の人形、囃子方等が徒歩で集まります。神前の門にさしかかると、頭から紙を外し、神前に向かい、御神酒をいただいて舞台へ向かいます。


諏訪社境内の東舞台で川平獅子が奏演されたあと、西舞台で行われます。幕が開くと、まず「序」。直面の大神宮=翁が登場します。四句神歌「とうとうたらり たらりあがり たらりとう」という謎めいた?謡が始まります。
続いて千代=千歳の舞です。「鳴るは滝の水 鳴るは滝の水 日は照ると思う」と謡い、四方を固めます(その間に、翁は面捌きによって白式尉面がかけられます)。
千歳は、袖がらみなど独特な所作をしながら、足は反閇(へんばい)のように力強く踏み込まれます。

その後、大神宮(翁)になります。翁は「総角(あげまき)や どうんどうんや」と謡い、やがて立ち上がり、反対側に座していた丈=三番叟と「対面」となります。
そして翁の「千早振る…」から「万歳楽」まで、謡いながら反閇、突っつき乃の字等、様々な呪術的な翁芸を繰り広げます。やがて戻ると、面を外し、「翁帰り」という独特な摺り足で、退場となります。

続いて丈(三番叟)の舞になります。
翁が退場すると、大皷が単独で登場し、やがて三番叟が現れ、「ほほ おうさいや おうさい 喜びありや喜びあり 我が此の所よりほかには やらじと思う」と唱えた後、足固め、袖がらみ、五つ拍子等、激しい足踏みが印象的な、呪術的所作を続けます。この部分を特に<揉みの段>といいます。

戻った丈(三番叟)は「黒式尉」の面をかけます。そして千代(千歳)と丈(三番叟)の「対面」となります。これは狂言風な問答です。千代(千歳)が「あら様がましや さらば鈴を参らしよう」と丈(三番叟)に鈴を渡すと退場します。これから<鈴の段>となり、呪術的な部分になります。
以上で舞が終了となります。三番叟も面を外し、幕が閉じます。

すると再び幕が開き、東舞台にいる川平衆と相対し、シャンシャンシャン…と独特なリズムで、手打ちをしてすべてを終えます。

この親沢の人形三番叟が注目されるのは、古い芸態であるということ、「うなずき形式」と呼ばれる頭の構造であることが挙げられます。また、操り方は大神宮(翁)と千代(千歳)が一人遣い、丈(三番叟)が二人遣いであり、操る人は上体を反らしながら掲げるように持ち上げるので、大変な動作が強いられます。そして今日まで厳格に伝承されてきたのは、その独特な伝承方法で知られます。現役役者を7年間勤めなければならないのです。7年過ぎると「おじっつぁ」と呼ばれる親方となり、後進の指導にあたります。その稽古もかなり厳格に行われておられるのだそうです。こうした厳格さが、200年といわれる歴史を重ねてきたものだということです。