○ハァー百万の 敵に卑怯はとらねども 串木野港の 別れには
思わず知らず 胸せまり ホロリ涙の ひとしずく(男涙を ついほろり)サノサ
○ハァー落ちぶれて 袖に涙のかかるとき 人の心の 奥ぞ知る
朝日を拝む人あれど 夕日を拝む人はない サノサ
○ハァー夕空の 月星ながめてほろりと涙 あの星あたりが主の船
飛び立つほどに思えども 海をへだててままならぬ サノサ
○ハァー我が恋は 玄界灘よりまだまだ深い いつもあなたに青々と(逢おう逢おう)
岸うつ波の身のつらさ 岸に砕ける主の胸 サノサ
○ハァーやるせなや 泣いて泣かせてかたせ波 串木野乙女の純情を
沖の鴎にことづけて 主さんのもとへ届けたい サノサ
○ハァー十五夜の 月はまんまるさゆれども 私の心は真のやみ
せめて今宵のおとづれを 一声聞かせてほととぎす サノサ
○ハァーひょっとすりゃ これが別れとなるかも知れぬ
短気おこさず深酒(自棄酒)を 飲むなと言うたがわしゃ嬉し サノサ
○ハァーもう泣くな出船の時に泣かれては 船を見送るそなたより
港出て行くこの僕は まだまだ辛いことばかり サノサ
○ハァー今出船 汽笛鳴らして旗振り交わし しばしの別れを惜しみつつ
船は出て行く海原へ ご無事で大漁祈ります サノサ
○ハァー砂白く月清らかな海岸で 好いた同士の語り合い
これが理想の妻なるか やぶれてはかない失恋か サノサ
○ハァー波静か 月さえわたる南の沖で いとし我が家の夢を見る
無事か達者か今頃は どうして暮らしているのやら サノサ
○ハァー雨は降り 波はデッキを打ち洗い 寒さに手足は凍えたと
言ってよこしたこの手紙 肌で温めているわいな サノサ
○ハァー今度また 大漁してくれ大漁する 誓って港を出て三月
明日は満漁の帰り船 妻子の笑顔が目に浮かぶ サノサ
○ハァー夢去りて 人に踏まれし道草の 露の情けにまた生きる
たどる苦難の人生も 涙でくらす五十年 サノサ
○ハァー近ければ 顔見て笑う節もある 遠けりゃ空見て泣くばかり
落ちる涙を溜め置いて 主へ文書く硯水 サノサ
○ハァー月づくし 吉野の山の春の月 四条河原の夏の月
三保の松原秋の月 田子の浦田の冬の月 サノサ
○ハァーいつまでも あると思うな親と金 ないと思うな災難を
九月一日震災に さすがの東京も灰となる サノサ
○ハァー身はここに 心はあなたの膝元へ たとえ幾月はなれても
松の緑は変われども 私の心は変わりゃせぬ サノサ
○ハァー明日ありと 思う心の仇桜 夜半に嵐の吹くように
荒海稼業の我々の 明日の命を誰が知る サノサ
○ハァー義理も捨て 人情も捨てて世も捨てて 親兄弟も捨てたのに
捨てられないのが主一人 もとは他人でありながら サノサ
○ハァーから傘の 骨はばらばら紙破れても はなればなれになるものか
私とあなたは千鳥がけ ちぎれまいぞえ末永く サノサ
○ハァー主となら 裸でもよい添われるならば 竹の柱に茅の屋根
寝ながら月星拝むとも 三度の食事は一度でも サノサ
○ハァー鴬は 梅の小枝で一夜の宿を 枝を枕にすやすやと
恋の夢見て目を覚まし 空を仰いでホーホケキョ サノサ
○ハァー串木野を 出港すればはや荒れの海 種子屋久島をば横に見て
鳥も通わぬ八丈の 南の沖で鮪獲る サノサ
<追分入り>
○ハァー思い出す 今朝の別れにひと言葉 たとえ千日逢わずとも
<追分>「沖で鴎の 啼く声聞けば 船乗り稼業はやめられぬ」
身を大切に深酒を 飲むなと言うたがわしゃ嬉し サノサ
○ハァー串木野の港よいとこ 一度はおいで 汐路に伸びゆく幾千里
<追分>「沖で鴎に 漁場をきいてよ」
幾日ぶりかで大漁旗 かじきまぐろの山をなす サノサ
<古調>
○ハァー歌なれば(ハーヨイショ)
東雲(しののめ)節か二上りか
米山甚句もよけれども(ハーヨイショ)
今時はやりの磯節か
いつも(ハーヨイショ)
変わらぬさのさ節 サノサ
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