〜鳥取県鳥取市円通寺〜
鳥取県鳥取市円通寺には古くから「円通寺人形芝居」と呼ばれる芸能が伝承されています。「三吉デコ」と呼ばれる演目から、「平井権八」「作州心中」といった芝居を伝えるなかで、「大黒舞」があります。それが《円通寺大黒舞》とか《因幡大黒舞》というネーミングで、歌われています。

因幡地方に人形芝居が伝わったのは、江戸時代のことで、淡路島からの一座によるものであったようです。特に円通寺人形芝居一座は各地を巡業して歩くほど、盛んだったといいます。人形は文楽と同じく三人遣いで、音楽の方は浄瑠璃も使ったようですが、地元の演目については流行り唄を使ったとのことです。口説き物に使われる唄は《念力(がんりき)節》といい、もとは新潟県の《新保広大寺》の口説であったようです。そして伴奏は三味線、胡弓、そして鳴り物です。

流行り唄を取り込むことで、民俗芸能と民謡の交流があったようです。そして「大黒舞」の方も、因幡地方では家々を廻って祝言を述べながら踊っていく「大黒舞踊り」が残されていますが、そうした曲が人形芝居にも取り入れられたものと思われます。円通寺では、他の演目と同じように舞台の上の右側に、一般の浄瑠璃のように、唄、三味線、胡弓、鳴り物が並び、歌われています。こうして、ステージ民謡としての《因幡大黒舞》も、三味線と胡弓が入る曲として、よく知られるようになっていきます。

曲の方は、景気のいい雰囲気で、祝いの詞が連なります。テンポも速めで、楽しい曲です。曲調として、円通寺では明るい「律音階」に聞こえます。なかには音階上で半音下げて、「都節音階」のようにしてしっとりと歌うテイクもあります。

円通寺では人形が出て、途中に台詞を挟みながら、楽しい雰囲気で祝いの詞を述べていきます。民謡と民俗芸能との一体化したなかから、広く歌われるようになった名曲の1つだと思います。