〜新潟県新潟市石瀬〜

岩室甚句/岩室三下り
 唄:久子 三味線:新柏/岩室芸妓連中
                 コロムビア

新潟県のほぼ中央、越後平野の西側に聳える霊峰・弥彦山(638m)の山懐に抱かれたところに、越後一の宮弥彦神社があります。そこから更に5qほど北上した北陸街道沿いに、名湯岩室温泉があります。この弥彦詣りの客で賑わった岩室の御座敷で歌われてきたのが《岩室甚句》です。

越後一の宮・弥彦神社


記録では、『北越月令』(嘉永2年)に「七月盆踊の唱歌」のなかに、「岩室甚九郎ぶし」として「石瀬通いが病(やまい)となりて、今は岩室湯もきかぬ」といった歌詞で6首が掲載されているといいます。こうしたことから、かつては岩室あたりの盆踊り唄として歌われていたようです。新潟は「越後甚句」として、同系統の曲が各地に伝わっていますが、そうした甚句の1

つであったと思われます。

こうした素朴な甚句だった唄に、昭和7〜8年頃、岩室の名芸妓・小竜と初枝の両人が三味線の手をつけ、太鼓も入れ、今日のような座敷唄に仕立てたといいます。

唄は七七七五調を基本としますが、字余りも多く、歌詞の内容も越後なまりの楽しいもので、ほのぼのとした感じです。テンポは他の「越後甚句」よりもテンポをゆったりとさせ、湯上がりのけだるさのただよう唄になっています。

わたくし、一度岩室温泉に泊まったことがあります。仲間と健全な芸者遊びをしよう(笑)と、《岩室甚句》を歌える芸者さんを呼んでもらいました。すると、三味線を粋に抱えてお見えになりました。そして本場の《岩室甚句》を聴くことができました。またわたくしがこの甚句の三味線を弾けたので、新潟生まれの仲間に歌わせてわたくしが弾くと、その芸者さんが踊りを披露してくれました。そして「今どき、こんなお座敷は珍しくなったネ」と、逆に喜ばれました(笑)。

そして翌日、宿の方から「昨日の○○さんから、お預かりしました」と、《岩室甚句》と《岩室三下り》の入った45回転レコードをいただきました。そのレコードは岩室芸妓・久子の演唱。久子は小竜が折り紙を付けたという名妓。ステキなプレゼントにビックリでした。