八木節 歌詞
○ハァーまたも出ました三角野郎が 四角四面の櫓の上で 音頭取るとはお恐れながら 国の訛りや言葉の違い
お許しなさればオオイサネー
 
※冒頭はこうした句や、各外題ごとのものなどがあり、確定しない。

【国定忠治】
○ハァーさてもお聞きの皆様方へ チョイト一言読み上げまする お国自慢は数々あれど 義理と人情に命をかけて
今が世までもその名を残す 男忠治のその生い立ちを 不弁ながらも読み上げまするがオオイサネー

○ハァー国は上州佐位郡にて 音に聞こえた国定村の 博徒忠治の生い立ちこそは 親の代には名主をつとめ
人に知られた大身なるが 大事息子が即ち忠冶 蝶よ花よと育てるうちに

○ハァー幼なけれども剣術柔 今はようやく十五の年で 人に優れて目録以上 明けて十六春頃よりも
ちよっと博奕を張り始めから 今日も明日も明日も今日も 日にち毎日博奕渡世


○ハァー負ける事なく勝負に強く 勝って兜の大じめありと 二十才あまりの売り出し男 背は六尺肉付き太く
器量骨柄万人優れ 男伊達にて真実の美男 一の子分が三つ木の文蔵

○ハァー鬼の喜助によめどの権太 それに続いて板割浅太 これが忠治の子分の中で 四天王とは彼らのことよ
後に続いた数多の子分 子分小方を持ったと言えど 人に情は慈悲善根の

○ハァー感じ入ったる若親方は 今は日の出に魔がさしたるか 二十五才の厄年なれば すべて万事に大事をとれど
丁度その頃無宿の頭 音に聞こえた島村勇 彼と争うその始まりは

○ハァーかすり場につき三度も四度も 恥をかいたが遺恨のもとで そこで忠治は小首をかしげ さらばこれから喧嘩の用意
いずれ頼むとつわ者ばかり 頃は午年七月二日 鎖かたびら着込を着し

○ハァーさらばこれから喧嘩の用意 いずれ頼むとつわ者揃い 頃は午年七月二日 鎖かたびら着込を着し
手勢揃えて境の町で 様子窺う忍びの人数 それと知らずに勇親方は

○ハァーそれと知らずに勇親方は 五人連れにて馴染みの茶屋で 酒を注がせる銚子の口が もげて盃みじんに砕け
けちな事よと顔色変えて 虫が知らナかこの世の不思議 酒手払ってお茶昼を出れば

○ハァー酒手払ってお茶屋を出れぱ いつに変ったこの胸騒ぎ さても今宵は安心ならぬ 左右前後に守護する子分
道に目配ばせよく気を付けて 目釘しめして小山へかかる 気性はげしき大親方は

○ハァー気性はげしき大親方は およそ身の丈け六尺二寸 音に聞こえし怪力無双 運のつきかや今宵のかぎり
あわれ命はもくずのこやし しかもその夜は雨しんしんと 闇を幸い国定組は

○ハァー今は忠治は大音声で 名乗り掛ければ勇親方は 聞いてニッコリ健気な奴ら 命知らずの蛆虫めらと
互い互いに段平物を 抜いて目覚す剣の光り 右で打ち込む左で受ける

○ハァー秋の木の葉の飛び散る如く 上よ下よと戦う内に 運のつきかや勇親方は 胸をつかれて急所の痛手
ひるむ所へつけ込む忠治 首をかっ切り勝鬨あげて しめたしめたの声諸共だがオオイサネー


五郎正宗孝子伝
○ハァーご来場なるみなさんへ 平にご免を蒙りまして何か一席伺いまする かかる外題は何かと聞けば 五郎正宗孝子の誉れ
うまいわけにはまいらぬけれど さらばこれから伺いまするオオイサネー

○ハァー国は相州鎌倉おもて 雪の下にてすまいをなさる 刀鍛冶屋の行光こそは 玄関かまえの建物造り
さても立派な鍛冶屋であれば 弟子は日増し増え行くばかり 今日はお盆の十六日で

○ハァー盆の休みで弟子達どもは 暇を貰って遊びに行けば 後に残るは五郎が一人 そこで行光五郎を呼んで
是非に聞きたいそなたの身上 言えば五郎は目に持つ涙 聞いて下さい親方様よ

○ハァー私ゃ京都の三条通り 宿屋稼業はしていたけれど つもる災難さて是非もない 火事のためにと焼け出されて
わしと母ちゃん乞食も同じ 九尺二間の裏店(うらだな)住まい 母は洗濯縫針仕事

○ハァー私ゃ近所のお使い歩き 細い煙で暮らしていたが お墓参りのその戻り道 あまた子どもが私のことを
五郎さんには父親がない 父の亡い子は父(てて)なし子じゃと 言われましたよノー母ちゃんへ

○ハァー父がこの世におることなれば 一目なりとも会わせておくれ 泣いて頼めば母親言うに 父は関東で刀剣鍛冶屋
さほど会いたきゃ会わせてやろと 家財道具を売りしろなして 下り来たのが東海道よ

○ハァー音に聞こえし箱根の山で 持ったお金は賊に盗られ 母は持病のさしこみがきて 手に手つくしたその甲斐もなく
ついにあの世へ旅立ちました 死ぬる間際にこの短刀を 父の形見と私にくれた

○ハァーあとは言わずにそれなりけるが 西も東も分からぬ土地で 母に別れてどうしょうぞいと 一人寂しく嘆いていたら
通りかかった桶屋の爺が わしを助けて下さいました 恩は必ず忘れはしない


○ハァー父に会いたい桶屋をやめて 刀鍛冶屋になりましたのじゃ 聞いて行光不思議に思い 五郎持ったる短刀とりて
中身調べてびっくりいたす 五郎引き寄せ顔うち眺め さては我が子であったか五郎

○ハァー親はなくとも子は育つのよ そちの訪ねるその父親は わしじゃ藤六行光なるぞ 思いがけない親子の名乗り
様子立ち聞く継母お秋 障子開いて飛び込み来たる ヤイノヤイノと胸ぐらとりて

○ハァーこれさ待ちゃんせ相手の女 腹を痛めて産んだる子じゃと その日はそのまますんだるけれど 思い出してはお秋のやつが
邪魔になるのは五郎が一人 今にどうする覚えておれと 悔し悔しが病気となりて

○ハァー日増し日増しに病気は重く 軽くなるのが三度の食で そこで五郎は心配いたす 産みの親より育ての親と
子どもながらの利口なもので 親の病気を治さんために 夜の夜中に人目を忍ぶ

○ハァーそっと抜け出で井戸へと行きて 二十一日願掛けいたす ある夜お秋が厠に起きて 手水使おと雨戸を開けりゃ
いつの間にやら降り来る雪の 風が持てくる水浴びる音 何の音かとすかして見れば

○ハァー水を浴びるは孝子の五郎 寒さこらえてアノ雪の上 上に座って両の手会わせ 京都伏見のお稲荷さんよ
母の病気を治しておくれ もしも病気が治らぬときは 五郎命を差し上げますと

○ハァー汲んだ釣瓶にしっかとすがり またも汲み上げざんぶと浴びる 様子見ていた継母お秋 胸に一もつその夜は眠る
朝は早くに起きたる五郎 母の居間へと見舞いに行けば 母のお秋は布団にもたれ

○ハァーいつに変わって猫なで声で そこじゃ寒いよこっちにおいで ハイと寄り来る五郎のたぶさ たぶさつかんで手元へ寄せて
夕べお前は何していたの 雪の降るのにアノ水浴びて 神に祈ってこの継母を

○ハァー祈り殺そとさて怖ろしや 鬼か天魔か親不孝者め 枕振り上げ打たんとすれば 五郎その手にしっかとすがり
それは母ちゃん心得違い どうぞお許し下されましと 泣いて詫びする耳にも入れず

○ハァーそばにあったる煎薬土瓶 五郎めがけて投げつけまする 投げた土瓶は五郎の額 額破れて流るる血潮
わっという声その声聞いて すぐに寄せ来る弟子達どもは 五郎体をしっかと押さえ

○ハァー別の一間へ連れ行く様子 これを見ていた行光こそは おのれ憎いお秋のやつと 思う心は山々なれど
おれのおかげで日本一に 出世したのも
おのれのおかげ そこで五郎を一間に呼んで

○ハァー切なかろうが許しておくれ 家の跡取りゃお前であると 父の優しい言葉を聴いて 昼の邪険も忘れてしまい
二十一日水浴び通す 五郎一心点にと通じ お秋病気が全快いたす

○ハァーお聞き下さる皆さん方へ もっとこの先読みたいけれど まずはここらで留め置きまして ご縁あるなら
またこの次だがオオイサネー


【乃木将軍と辻占売り】
○ハァーご来場なる皆さん方へ 平にご免を蒙りまして 何か一席読み上げまする かかる外題は何をと聞けば
乃木の将軍辻占売りを うまいわけにはいかないけれど さればこれから読み上げまするがオオイサネー

○ハァー明治三十七、八年の 日露戦争開戦以来 苦戦悪戦いたされまして 我が子二人は戦死をすれど
うまずたゆまず奮闘したし ついに落城いたされまして 御旗旅順(りょじゅん)にひるがえされた

○ハァー兵の指揮官乃木大将は 戦死なさった我が兵卒の 遺族訪問いたされまして 謝辞なさったその一席は
頃は二月の如月時よ 武士の育ちの乃木将軍は どこへ行くにも質素な支度

○ハァー今日はおだやか散歩をしようと 家を出かけて梅林には ここに立派な売店ありて 腰を下ろして眺めをいたす
梅の香りはまた格別で ついに夜更けて十一時頃 通りかかった両国橋の

○ハァー
水の面に月ありありて 波に揺らるるその風景に 寒さ忘れてたたずむ折りに 二人連れなる辻占売りが
破れ袷を身にまとわれて 赤い提灯片手に下げて 弟手を引き寒げな声で

○ハァー恋の辻占アノ早判り 買って下さい皆様方と 客を呼ぶ声さも愛らしや 兄は一人で心配いたす
なぜか今夜は少しも売れぬ そんなこととは弟知らず これさ兄ちゃん寒くてならぬ

○ハァー早く帰って母ちゃんのそばで だっこいたして寝んねがしたい 言えば兄貴の申することに さぞや寒かろ我慢をおしよ
兄は弟いたわりながら 涙声して客呼ぶ声に 乃木は近寄り子どもに向かい

○ハァーお前ら兄弟いずくの者で 年はいくつで名は何という 言えば子どもは涙を拭いて 私ゃ十二で弟五つ
林善太郎 弟勇 父は善吉母ちゃんお里 それに一人の婆さんがいて


○ハァー一家五人で貧しいながら 仲むつまじく暮らしていたが 父は戦地に行かれたままで 未だ一度の頼りもないよ
どうか様子が聞きたいものと 思う折からお役場からの 林善吉ゃ名誉の戦

○ハァーこれを聞いたる私の婆は 力落として病気になりて 熱にうかされうわごとばかり そこで母親途方に暮れて
日にち毎日ただ泣くばかり わしはこうして辻占売りて 学校休みに近所の人の

○ハァー使いいたしてわずかな銭(かね)を あちらこちらで恵んでもらい 聞いて将軍びっくりいたす わしは乃木じゃがお前の家へ
用があるから案内頼む 言えば子どもの申することに 勇行こうと弟連れて

○ハァー急ぎ来たのが浅草田町 九尺二間の裏店住まい 家は曲がって瓦が落ちる 月はさし込む風吹き通す
見るも哀れな生活ぶりよ お待ち下さい雨戸を開けて 坊はただ今帰られました

○ハァーお里聞くよりにっこり笑い さぞや寒かろおあたりなさい 何のご用か知らないけれど 乃木の将軍参られました
聞いてお里はびっくりいたす 奥に寝ていた老婆も聞いて 乃木と聞いては恨めしそうに

○ハァー床の中から這い出しながら 可愛い倅(せがれ)を殺した乃木よ たとえ恨みの一言なりと 言ってやらんと座を改める
それを聞くより乃木将軍は 婆やご免と腰うちかけて 乃木というのはお前にとって

○ハァーどういう訳にて仇(かたき)となるか 人に話してよいことなれば 一部始終を聞かしておくれ いえば老婆が申することに
聞いて下さい私の話 わしにゃ可愛い倅があって 徴兵検査に合格いたす

○ハァーしかも陸軍歩兵となりて 満期除隊も目出度く済んで 嫁をもらって二人の中に 可愛い孫めが二人もできて
うれし喜びわずかの間 日露戦争が開かれまして 旅順港なる苦戦に向かい

○ハァー決死隊にと志願をいたし 死する命は惜しまぬけれど 後へ残った二人の孫が 親の亡い子と遊んでくれぬ
坊はよけれど勇が不憫 父がこの世にあることなれば 一目なりともあわせておくれ

○ハァーせがむ子どもの顔見るたびに 胸に釘をば打たるる思い 金鵄勲章(きんしくんしょう)白木の位牌 見せて泣き出すその有様を
そばで見ている私のつらさ こんなときには倅がいたら こんな苦労はさせないものと

○ハァーどうぞお察しくださりませと 聞いて将軍涙を拭いて わしも二人殺しておると 片手拝みに懐中よりも 金子取り出し神にと包み
これはわずかの香典なりと あげて将軍我が家へ帰る

○ハァーお聞き下さる皆さん方へ もっとこの先読みたいけれど 名残惜しゅうはござそうらえど まずはここらで留め置きまして
ご縁あるなら またこの次だがオオイサネー