<山形県飽海郡遊佐町上蕨岡>
大物忌神社蕨岡口ノ宮/5月3日

山形県飽海郡遊佐町上蕨岡のまつりを訪ねたのは、東北地方・日本海沿岸の舞楽系の芸能を見ておきたかったからでした。
このまつりの行われる遊佐町は、秋田・山形両県にまたがる鳥海山(2237メートル)の麓に位置します。「大物忌神」を山頂に祀るこの神社は、かつて出羽一ノ宮で、山形側では、ここ蕨岡口ノ宮と吹浦口ノ宮が登山口でした。なお、吹浦の例大祭(5月8日)には田楽系の芸能が奏演されます。また、「杉山比山」で知られる杉山地区も同町内です。

この上蕨岡は、遊佐駅を出て田園地帯を行くと、丘陵地帯の上に開けた場所で、古くは「上寺」と呼ばれていました。かつて、この地には真言宗の竜頭寺という寺があったからだそうです。しかし、ここはかつての鳥海山修験の、いわば宗教村落であったのでした。実際に訪ねてみると、大物忌神社を中心に、古い坊宿をつとめた建物や古い遺構が目につきます。

現在は、仏教色は取り払われてはいますが、細部にかつての修験の趣を残しています。
このまつりに登場する舞楽系の舞は「神楽殿」で舞われますが、その建物たるや竜頭寺の鐘楼そのものです。しかもその正面は、旧社殿に向けられています。

まつりは、5月3日の午後から。まず、神社拝殿から行列が出て、公民館まで向かいます。ここで、拝礼などの儀式が延々と行われます。
その後、再び神社へ戻りますが、ここから若衆によって「大御幣」を引き回されます。そして、神社に到着すると、大御幣は奉納されます。

そして、いよいよ舞楽系の舞が、神楽殿(=旧・竜頭寺鐘楼)で行われます。

舞は、大人の舞、稚児の舞とがあります。また楽器は、大拍子(大きめの枠付き締太鼓)のみで、篠笛はありません。ただ、「ドーホーイワーテーテジテジ…」といった唱歌のようなものは唱えられますので、かつては笛はあったものでしょうか。

この舞楽系の舞を、研究者は「蕨岡延年」と命名されていますが、地元では「ドーヤリの舞」といった呼び方のようです。

演目 舞について
1 振鉾 大人1舞。鳥兜に木の鉾を2本持つ。
2 陵王 大人1舞。はじめ、古い「陵王」面を着けて舞い、後半は「納蘇利」面を付け替えて舞う。
3 童哉礼(どうやり) 稚児2人舞。採物はなし。
4 童法(どうほう) 稚児4人舞。採物はなし。
5 壇内入(たないり) 稚児4人舞。鳥兜を被る。
6 倶舎(くしゃ) 大人4人舞。扇を持ち、「扇の舞」と言われる。
7 太平楽 大人4人舞。剣を持ち、「剣の舞」と言われる。