〜岐阜県郡上市八幡町〜

郡上市八幡町は水と踊りの町として知られる町で、八幡城の城下町です。町を歩くと水の音が本当によく聞こえてきます。それは吉田川や小駄良川の音であったり、水路を流れる水の音であったり…。また宗祇水をはじめとして、あちこちに水場があります。また、きれいに保たれた家並みは、何度訪ねても飽きさせません。また、鮎釣りでも知られたところで、太公望も集まる町です。ある年、吉田川の河畔の宿に泊まったとき、部屋から川を見てみると、鮎の群れがはっきりと見えるのには驚きました。
郡上おどりは、7〜8月を中心に、町内の各地区を移動しながら、開催されます。それぞれ、各地区のお祭りにちなんでおり、「縁日おどり」として位置づいています。また、盆の8月13、14、15、16日の4日間は、「盂蘭盆会」で徹夜おどりとなります。

曲は、《かわさき》 《三百》 《げんげんばらばら》 《さわぎ》 《春駒》 《ヤッチク》 《甚句》 《古調かわさき》 《猫の子》 《まつさか》の10曲があります。それぞれ特色のある唄です。


《かわさき》
 伊勢神宮の参詣客で賑わった三重県伊勢市。伊勢の台所と呼ばれた河崎で歌われていた、「ヤートコセー」の《河崎音頭》がやがて《伊勢音頭》として、全国に広がっていくのですが、それが郡上入りしたものといえます。これが《郡上節》としてよく歌われています。三味線、鳴り物入りの賑やかな唄です。興味深いのは、信州あたりでも、《伊勢音頭》の伝承はいくつか散見するのですが、木曽地方や安曇地方に《八幡》として、「郡上の八幡出てくる時は…」という歌詞の唄が残されています。この原型が《古調かわさき》で、無伴奏で歌われます。その日の踊りの最初に踊られます。もっともよく踊られるのが《かわさき》で伴奏がつきます。

《三百》

 これについて、青山幸道の郡上入りの時に、領民に三百文ずつ与えたので、喜び踊ったという説があるそうです。また、信州から《ノヨサ》という盆踊り唄が伝えられたともいいます。三味線、鳴り物入りで賑やかに歌われます。踊りは…初心者には難しい。同じような振りを二回繰り返すのですが、手を打ったり、上げ方が変わったりして、結構戸惑います。


《春駒》
 
 これは石川の能登の鯖売り歌った「七分五厘の焼鯖 焼鯖」という唄が、行商人たちによってもたらされたものといいます。昭和24年(1949)頃までは、《さば》《焼鯖》などと言われていたのを、梶原源太景季の乗った名馬・磨墨が気良の里(郡上郡奥明村)の生まれということもあって、曲名を《春駒》として、現在の「七両三分の春駒 春駒」のはやしに変えたものといいます。やはり三味線と鳴り物が入ります。踊りは単純ながら激しい動作です。

《げんげんばらばら》 
 これは童歌、糸ひきの座繰り唄であるといわれており、盆踊りにしているのは郡上八幡だけだそうです。あるいは富山あたりの《チョンガレ節》のような唄が移入されたともいいます。いずれにしても、口説形式の長編の歌詞によるユニークなものです。この踊りだけ、進行方向が逆になります。

《さわぎ》
 これは伴奏に三味線はなく、CD等では太鼓のみですが、地元へ行ってみると、拍子木のみで囃されます。メロディは江戸の《二上り甚句》と思われます。7775調だけでなく、字余りの歌詞がとても楽しい。また、前の唄が終わると次の唄に入る「アー…」の出だしが重なるところが、一瞬「ハーモニー」に聞こえ、何ともいえずいいです。


《甚句》
 
 これは無伴奏で歌い、踊られますが、メロディは《本調子甚句》です。これと同系統の甚句としては《名古屋甚句》が代表格ですが、あきらかに《角力甚句》のようです。掛け声も「トコドッコイドッコイ」と入ります。角力の稽古のような踊りをしているみなさんがいました。同系統の甚句は各地に残っています。相撲甚句(角力甚句)の人気が大きいようです。

《ヤッチク》 
 これも太鼓のみで歌われます。滋賀県あたりの古い盆踊り唄の《ヤッチク踊り》が入ったようです。白鳥おどりの《八ツ坂》も何となく似た感じがします。やはり口説形式で長い物語が語られます。踊りは初心者向きで、振りは白鳥おどりの《源助さん》と似たような気がします。

《猫の子》
 
 これは福井・石川でよく歌われている盆踊り唄ですが、郡上付近でも何か所かで歌われているようです。白鳥おどりにも残されています。郡上八幡では無伴奏で歌い踊られます。信州・安曇あたりから新潟・糸魚川あたりの盆踊り唄にも似た感じの唄があるような気がします。

《まつさか》
 
 これは新潟・新発田発祥といわれる祝い唄の「越後松坂(まつざか)」とは異なり、伊勢・松阪で生まれた《松阪(まつさか)踊り》がもとであるといいます。やはり口説形式で、現在は「郡上名所案内」がよく聞かれますが、かつては「お染久松」や「八百屋お七」などが歌われたといいます。拍子木が入り、しみじみと歌い踊られます。これで、その日の踊りが終わることが多いようです。


実際に訪ねてみて驚いたのが、すべて生演奏の三味線、笛、鳴り物に合わせて歌われていることでした。それを30日以上続けておられ、敬服します。また、踊りファンが沢山集まり、楽しそうに踊っています。しかも、端正に踊られています。また、白鳥町の白鳥おどりとも比較されますが、共に盛大に踊られ、踊りファンも多いようです。

わたくしは、まだ徹夜踊りの日に訪れたことがないのですが、ある年、地元の人とお話をすると、「この踊っている人のほとんどは観光客だよ!」ということでした。だれでも一度来てみると、必ず次の年も来るのではないでしょうか。


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