日本の音楽の歴史の中で三味線は、どうしても歌の伴奏楽器といった位置にあったようです。日本の伝統音楽の特徴が「声」の音楽ですから、楽器は伴奏といったイメージです。

わたくしなども民謡の三味線をいくらかかじったことがあるのですが、何かにつけて「三味線で何か弾いてみろ!」などと言われることが多いのですが、そういうとき困ることが多いのです。

次世代に伝えたい古くて新しい音の世界
「日本音楽のちから」

現代邦楽研究所編 監修:西潟昭子
音楽之友社 2001年

と言うのも、曲がないからです。たしかに民謡を歌いながら三味線を弾けば、何とか形になるのでしょうが、プロでもないかぎり、弾き語りは大変なことです。


このように「伝統的な」三味線の世界は「うた」の伴奏的役割が多かったようで、三味線のためのソロ作品というと、古典で探すのは難しいと思います。

しかし、器楽音楽が発達しなかったというわけではありません。「手事」「合の手」といった器楽部分があり、超絶技巧を要するものもあります。ただ、いわゆる器楽曲がまれであるということです。 


日本でもクラシック系の作曲家が、新作で邦楽器を用いた作品を出すようになってきましたが、尺八や箏とちがって、三味線を扱う作曲家は少ないようです。それも作曲者自身が邦楽の演奏家である場合、クラシック系の作曲家である場合を問わず、三味線のための曲は意外と少ないです。


そんな中、西潟昭子女史は、新しい三味線の世界を切り開いておられます。様々な作曲家に作品を委嘱し演奏され、さらに楽譜まで出版され始めています。

三枝成彰作曲《La・La-La-La・La》は衝撃的な作品で、個人的に大好きで、ワクワクさせられます。

もっともっと、三味線のための曲が増えていくといいな…と常々思っています。

ただ、まだまだ前衛的な作品、ドキッとするような作品が多いようです。実験的な時代から、そろそろ耳に馴染んで「これは美しい!」とか「これは面白い!」というものが作品として生み出され、そして演奏家によってどんどん演奏されることを期待しています。