<岩手県下閉伊郡普代村>
廻り神楽:1月〜3月(三陸沿岸地域)

民俗芸能で修験道の影響を受けているものが多いということは、よく聞きますが、東北にはそのものズバリ「山伏神楽」あるいは「法印神楽」等と呼ばれる、ダイナミックな神楽があります。冬の農閑期、約2ヶ月ほどの期間、三陸沿岸の地区を巡業する神楽団があります。「鵜鳥(うねどり)神楽」です。

わたくしが訪ねたのは、2000年2月11日。たまたま、2月の東北出張のおり、知り合いに連れられて訪ねたのが岩手県釜石市箱崎。ここのある神楽宿のお宅にお寄りして、神楽を見学してきました。

◆岩手県釜石市箱崎(宮古市方面を望む)◆

この鵜鳥神楽の本拠地は、下閉伊郡普代村。卯子酉(うねとり)山(424m)に鎮座する鵜鳥神社を出発し(舞立ち)、三陸沿岸の霞場を廻ります。北まわりと南まわりのコースがあって、同じように廻り神楽(通り神楽)を残す、黒森神楽(宮古市)と共に、隔年で交替して巡業をしているのだそうです。

巡業は、その日の目的地に着くと、家々を一軒一軒「権現様」を奉じて祈祷して廻る<門打ち>を行い、最後に宿となる家(神楽宿)で、<しっとぎ獅子>という「舞込み」を行って入っていきます。

宿では、夕食後、村人達が見物に神楽宿を訪れます。座敷には、「豊漁」の文字、そして大きく跳ね回る鯛のデザインの幕が張られ、座敷が神楽の舞台となります。
まず、舞なしで《打鳴らし》という「神歌」が、神楽衆によって歌われます。《神降ろし》《座揃い》ともいい、胴取り(正面で太鼓を打つ人、神楽団の中心)の音頭で歌われます。

その後、いよいよ神楽が始まります。鵜鳥神楽で、必ず演じられる「役舞」という演目は次の通りです。

1 清  祓 2 岩長姫  3 岩戸開  4 御祈祷  5 榊 葉  6 松迎え  7 山の神  8 恵比須舞

これらの「役舞」以外にも、「女舞」「武士舞」「狂言」等のレパートリーが40演目以上あるのだそうです。わたくしが訪ねたときは、田中の地蔵、綾遊が奏演されました。
こうした神楽を見ると、印象的なのは黒い頭の「権現様」という獅子。カツカツと歯を打つ音が印象的です。そして、舞の数々は激しい動きで、見ていても気持がいいです。

学生時代に、山伏神楽で知られた早池峯神楽、岳神楽・大償神楽を、早池峰神社例大祭で見学したことがあります。鵜鳥神楽もそうですが、東北の修験系の神楽は、転がるような笛のメロディ、時には軽やかに時にはダイナミックな太鼓、そして一番耳に残るのが鉦(=銅拍子)です。
久しぶりに耳にした神楽のサウンド、そしてキビキビとした舞の数々。そして、今でもこうして神楽宿を巡業して歩いておられる神楽団の皆さんの実際を拝見でき、感激の神楽見学でした。