長野県東筑摩郡筑北村刈谷沢/3月9日に近い日曜日  14:00〜

長野県も中部、松本市と長野市の中間点のような場所に位置する筑北村。合併前の旧坂北村の刈谷沢は、北国西街道(善光寺街道)沿いの地区です。少し山手に入ったところに、総社神明宮が鎮座します。江戸期には、会田組の内、坂北郡12ケ村の総社として、広範囲の氏子をもち、中世には青柳氏の保護を受けた由緒の古い神社です。

この刈谷沢神明宮の春の祈念祭として、古くから作初め神事が行われてきました。毎年3月9日、その年の農作業が始まる前の春に、豊年予祝の田遊び芸として行われ、張子の牛を引いて代掻きの所作をするところから、お田植え祭りとして、知られています。

現行では、3月9日に近い日曜日に行われまていす。
まず、秋祭りに行われている獅子神楽が春祭りにも舞われます。この神楽を伝承する「健児社」の人たちによって、午後12:30頃、公民館を出て、地区内を道中の曲にのって練り歩きます。鳥居前や神社前で舞いながら、拝殿に練り込み、本殿裏を廻り、一周すると、拝殿脇で止まります。

午後2:00からは、拝殿内で神事、修祓が行われます。50分ほどして終わると、健児社による獅子舞が拝殿前で行われます。

10分ほどの舞が終わると、いよいよ作始め神事になります。
まず張子の牛を導き手綱を取る太郎が出ます。また万鍬をもち、代掻きの動きをする次郎が、「毎年毎年嫌やでござる」と言いながら、田に見立てた拝殿前を廻っていきます。外神主が祝詞を奏上すると、産霊の神木、鍬、鋤をもった付人があとに続いて廻ります。「アラ、めでたいなー」の掛声にあわせて、周囲の客は、付近の雪を牛に向けて投げつけます。特に牛を導く太郎には、相当な雪が投げつけられ、田植えの時に、水不足にならないようにと祈るものであるといいます。

同じ所作で拝殿前を3周して、一切が終わります。この際に「ボーボーボー」というかけ声があがりますが、笛や太鼓による囃子はなく、古式をたたえた動作のみで終始します。
暖冬のためか、最近は境内に雪もあまりなく、どこからか雪を運んでくるのだそうです。それにしても、参拝客は楽しそうに、牛めがけて、雪を思い切り投げつけます。そのため3周目くらいになると、拝殿前は白く雪だらけになります。雪が豊年のしるしというのは、新野の雪祭と同じ発想でしょうか。この祭りを終えると、本格的に春がやってくる気配です。

長野県内ではここ刈谷沢神明宮と、大町市仁科神明宮に作始め神事が伝わっています。ともに伊勢神宮に関わる祈念祭りであり、春を呼ぶ祭りです。