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長野県上田市別所は、古来温泉地として知られてきました。またここら一帯は降水量の少ない土地柄でした。特に「塩田平」と呼ばれるこの地域は、溜池が散在しており、様々な「雨乞い行事が行われてきました。
岳の幟は、7月15日の早朝、夫神岳(1,250m)の山頂の九頭竜権現に長幟を献納し、雨乞いを祈る祭りでした。いわれとしては、永正元年(1540)の旱魃に、夫神岳山頂に九頭竜権現を祀り、雨乞いを祈ったところ、3日間雨が降り、それ以来、3丈の長幟を献納するようになったものといいます。
一方、祇園祭の出し物として、三頭獅子・簓踊が伝えられてきましたが、昭和9年に獅子頭新調を機に、これら2つのまつりを同時に行うことが慣例になったのだそうです。
ただ、夫神岳を挟んだ反対の小県郡青木村夫神地区でも、同様の祇園祭が行われてきました(現在は例祭でなく、何年か間を開けて行われています)。そして、同様の三頭獅子・簓踊が舞われています。
青木村夫神でも、「しなり幟」といって、岳の幟と同様の長幟を献納します。やはり同様の祭礼行事でありようです。また、この幟が山頂の九頭竜権現、すなわち龍の姿を表しているともいいます。いずれにしても、修験道色を感じさせる山のまつりです。
まつりの流れは次の通りです。
午前6:00 | 午前8:00 | 午前8:10 | 午前9:00 | 午前10:00 | 午前11:00 | 正午 |
夫神岳山頂 神事 |
日影地区 行列出発 |
上手地区 簓踊・三頭獅子 |
石湯前 簓踊・三頭獅子 |
大湯前 簓踊・三頭獅子 |
相染閣 簓踊・三頭獅子 |
別所神社 簓踊・三頭獅子 |
現在、岳の幟行事は、別所温泉内の4地区で、毎年1年ずつの当番で、夫神岳へ反物を持って登ります。夜明けとともに、山頂での神事の後、下山します。総代らに出迎えられ、簓踊・三頭獅子等が行列に加わり、別所温泉の各地区を行列を組んで進みます。
一方、安楽寺入口付近にある「市神」に遷されていた御神体前(=御旅所)でも神事が行われます。
その後、相染閣で一舞い終わった簓踊と三頭獅子が行列して、御旅所へ到着すると、列を整え、最後の別所神社へ向かいます。
祗園の御神体(牛頭天王=スサノオノミコト)を載せた神輿を先導に、別所神社へ進みます。
神社では、拝殿で神事が執り行われます。そして、最後の簓踊・三頭獅子が奏演されます。
本来、「岳の幟」行事と祗園祭とは別なものであったとは先述の通りですが、簓踊の最後の歌詞は、
○あの山に 雨が降りそで 雲が立つ えいぢゃ坊子たち 花の都へ
とあります。これは、風流系の芸能によく見られるものですが、祗園と雨乞いが結びつく例は、案外多いのかも知れません。
また別所温泉では、岳の幟前日にはは、祗園の「神輿」が出され、賑わいます。また、1998年の長野で行われた冬季オリンピック閉会式に出されたまつりとして、大きくアピールされています。